地震はなぜ起きるのか
地球の表面は、プレートと呼ばれる巨大な岩盤に覆われている。このプレートがゆっくりと動き続け、ぶつかり合ったり、すれ違ったり、一方が他方の下に潜り込んだりすることで、岩盤にひずみが蓄積していく。そのひずみが限界を超えたとき、岩盤が破壊される。それが地震だ。
これがプレートテクトニクスによる地震の説明であり、現代地球科学の基本とされている。日本列島の周辺で地震が多い理由も、太平洋の周囲に地震や火山が集中する理由も、この枠組みで説明される。
震源地はなぜ「点」なのか
地震のニュースには必ずこういう情報が出てくる。
「震源地:石川県能登半島沖、震源の深さ:15km、マグニチュード:7.6」
震源地は地図上の一点として示される。しかし教科書や解説図でよく見るプレートテクトニクスの説明を思い出してほしい。プレートとプレートがぶつかり合い、一方が他方の下に潜り込んでいく。そのイメージから自然に湧くのは、巨大な岩盤がぽきっと折れるような場面ではないだろうか。もしそうなら、震源は一点ではなく、折れた線全体になるはずだ。
ではなぜ震源は一点として報告されるのか。この疑問に答えるには、まずプレートとは何かを見ていく必要がある。
プレートとは何か
プレートを直接見た人はいない。掘って確認した人もいない。では何がプレートの存在を示しているのか。
GPSの精密計測によって、地表の岩盤が年間数cmのオーダーで動き続けていることが観測されている。日本列島と北アメリカ大陸は異なる方向に動いており、太平洋を挟んだ岩盤が互いに離れていったり近づいたりしていることがわかる。
海底では、海嶺と呼ばれる海底山脈を中心に、磁場の方向が交互に縞模様として記録されており、しかもその縞が海嶺を挟んで左右対称になっている。地球の磁場は過去に何度も南北が逆転していたことがわかっており、海底が生まれるとき、溶岩が冷えて固まる際にその時点での磁場の方向が岩石に記録される。この磁気縞模様は、海嶺から新しい海底が生まれて左右に広がっていることを示している。
そして地震と火山の分布だ。世界の地震と火山を地図上にプロットすると、特定の帯状の領域に集中していることがわかる。
これらの複数の観測データを重ね合わせると、ある場所を境に地表の動きの方向や速度が変わっていたり、地震や火山の活動が集中していたりする領域が浮かび上がってくる。その「何かが変わっている場所」を境界と定義し、その境界に囲まれた岩盤の塊をプレートと呼んでいる。
ではプレートとは具体的にどういう構造なのか。多くの人は地殻のことだと思っているが、プレートと地殻は同じものではない。
地殻の底は、地震波の速度が急変する面として観測できる。これをモホロビチッチ不連続面と呼ぶ。大陸の下では地表から30〜50km程度、海洋の下では5〜10km程度の深さにある。プレートとはこの地殻とその下の上部マントルの一部を合わせた層のことだ。その厚さは大陸の下で100〜200km程度、海洋の下で数十km程度とされている。
プレートは剛体なのか
プレートテクトニクスが登場した当初、プレートは剛体として扱われていた。剛体とは内部で変形しない完全に硬い物体のことだ。プレートが剛体であれば、同じプレートの上にある地点はすべて同じ方向に同じ速度で動くはずだ。
しかしGPSの精密計測が発達するにつれて、この仮定と合わない観測が積み重なってきた。
たとえばアメリカ北西部のオレゴン州とワシントン州では、GPSの観測から、この地域全体が北アメリカプレートに対して時計回りに回転していることがわかっている。回転速度は百万年あたり0.4〜1.0度だ。同じプレートの上にありながら、プレート全体とは異なる回転運動をしている。
またアメリカ西部のベースン・アンド・レンジ地域では、太平洋プレートと北アメリカプレートの相対的な動きの約25%が、約1000kmにわたる広い帯状の領域に分散して吸収されていることがGPSで観測されている。プレートの「境界」が一本の線ではなく、1000kmにわたって広がっているのだ。
さらに2008年に中国の四川省で起きたM7.9の地震は、ユーラシアプレートの内部、プレート境界から遠く離れた場所で起きた。プレートが完全な剛体であれば、その内部でひずみが蓄積して破壊が起きることは説明しにくい。
これらの観測が示しているのは、プレートは単純な剛体として動いているのではなく、内部でも変形し、回転し、ひずみを蓄積するということだ。現在の研究では、プレートは「準剛体」として扱われており、その変形の程度や分布を定量的に把握することが課題となっている。
では震源はなぜ「点」になるのか
プレートとは何かを見てきたところで、最初の疑問に戻ろう。震源はなぜ「点」として報告されるのか。
プレートが完全な剛体ではなく内部でも変形するとわかると、その答えが見えてくる。プレートがぶつかることで、広い面にひずみが蓄積していく。しかしそのひずみは均一ではない。岩盤の硬さや形状、間隙水圧といった局所的な条件によって、ひずみが特に集中する場所がある。そこが先に限界を超えて破壊が始まり、それが周囲に伝播していく。その破壊の起点が震源だ。
2024年の能登半島地震で150km以上にわたって地面がずれたのも、一点から始まった破壊が広がっていった結果だ。プレートが「ぽきっと折れる」のではなく、ひずみが最も集中した一点から破壊が始まるために、震源は点として報告される。
プレートは何枚あるのか
ではプレートは世界に何枚あるのか。
大きなプレートについてはおおむね一致している。太平洋プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、アフリカプレート、南アメリカプレート、オーストラリアプレート、南極プレートの七枚については異論がない。しかし小さなプレートになると十数枚になる説もあれば、二十枚以上になる説もある。
なぜ研究者によって枚数が違うのか。その典型的な例がインド・オーストラリアプレートだ。かつてインドとオーストラリアは一枚のプレートとして扱われていた。しかしGPS観測と地震データから、インドとオーストラリアは実は異なる方向に異なる速度で動いていることがわかってきた。インドは年間約45mm北上しているのに対して、オーストラリアは年間約70mm北上しており、しかも方向が微妙に異なる。現在では両者の間にカプリコーンプレートと呼ばれる別のプレートが存在するという説が有力だが、その境界はまだ明確に定義されていない。
つまりGPSで動きの違いが観測されても、それが「別のプレート」なのか「同じプレートの内部変形」なのかの判断は容易ではない。プレートの枚数は観測から一意に決まるものではなく、研究者の解釈によって変わってくる。
なぜ地球にだけプレートがあるのか
もうひとつ気になることがある。なぜ地球にだけプレートテクトニクスが存在するのかという問いだ。
金星も火星も岩石惑星であり、地震が起きている。火星ではNASAのインサイト探査機が実際に火星地震を観測している。しかしこれらの惑星にはプレートテクトニクスが存在しないと考えられている。
その証拠のひとつが火星のオリンポス山だ。その高さは約22km、直径は約600kmでほぼ日本列島と同じ大きさの巨大火山だ。地球最大の火山であるハワイのマウナケアは海底からの高さが約10kmだが、それでもオリンポス山の半分以下だ。地球ではマグマを噴き出す場所の上をプレートが移動し続けるため、火山は同じ場所でマグマを噴き出し続けることができず、成長に限界がある。火星でオリンポス山があれほど巨大になれたのは、プレートが動いていないために同じ場所でマグマが噴き出し続けたからだと考えられている。
では地球でだけプレートが動いている条件とは何なのか。水の存在がアセノスフェアの流動性に関係しているという説や、地球内部の熱の歴史が関係しているという説など、複数の仮説が議論されているが、まだ決着していない。
プレートの定義も、枚数も、地球にだけ存在する理由も、まだ研究の途中にある。次回は、そのプレートがなぜ動けるのか、何が動かしているのかを見ていく。


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