第5回:プレートテクトニクスがない星でも地震は起きる

地震

地震は地球だけの現象ではない

これまで四回にわたって地球上の地震とプレートテクトニクスを見てきた。プレートテクトニクスは地震を説明する強力な枠組みだが、完成した理論ではなく、観測に合わせて修正され続けていることが見えてきた。

しかし視点を地球の外に向けると、さらに興味深いことがわかる。地震は地球だけの現象ではない。プレートテクトニクスが存在しない星でも地震は起きている。

第1回で触れたように、金星も火星もプレートテクトニクスが存在しないと考えられている。しかし地震は起きている。プレートテクトニクスがない星での地震を見ることで、「地震とは何か」という問いが改めて鮮明になる。


火星の地震

火星に地震があることは長い間推測されていたが、実際に観測されたのは比較的最近のことだ。NASAのインサイト探査機が2018年に火星に着陸し、2019年に初めて火星地震を確認した。インサイトは2022年12月に運用を終了するまでに1319回の火星地震を記録した。

インサイトが観測した火星地震にはいくつかの特徴がある。まず規模が小さい。最大でもマグニチュード5程度であり、地球の基準では中規模以下だ。次に揺れが長く続く。地球の地震は数十秒から数分で収まることが多いが、火星地震は数時間続くことが観測されている。これは火星の岩盤が地球より乾燥しており、地震波が減衰しにくいためだと考えられている。地球の岩盤には水分が含まれており、それが地震波を吸収する役割を果たしているが、火星にはその効果がない。

では火星地震はなぜ起きるのか。火星にはプレートテクトニクスがないため、プレートのひずみが原因ではない。現在考えられているメカニズムは主に二つだ。

一つは惑星の冷却収縮だ。火星はかつて活発な火山活動を持つ熱い惑星だったが、現在は内部が冷えつつある。冷えることで岩石が収縮し、その収縮によって生じるひずみが地震を引き起こす。

もう一つはマグマの移動だ。火星にはオリンポス山という巨大火山があり、現在も火山活動が完全に停止しているわけではないと考えられている。観測では火星地震の多くがセルベルス・フォッサエと呼ばれる火山活動の痕跡がある地域から発生していることが確認されている。

インサイトの観測データはもう一つ重要なことを示した。火星の内部構造だ。地震波が火星の内部を伝わる様子を解析することで、火星の地殻の厚さ、マントルの構造、核の大きさが初めて直接測定された。火星の核は予想より大きく、液体の外核を持つことが示された。これは地震波を使って惑星の内部を調べるという手法が、地球以外でも有効であることを示している。


月の地震

月の地震は火星より早く観測されている。アポロ計画で設置された地震計が1969年から1977年にかけて月震を観測し、12000回以上の月震が記録された。

月震には四種類ある。

一つ目は深発月震だ。月の内部、深さ700〜1200kmで起きる。これは月の潮汐力、つまり地球の重力による変形が原因と考えられている。月は地球の重力に引っ張られており、その力が月の内部でひずみを生み出している。深発月震は27日周期で繰り返すことが観測されており、これは月が地球を一周する周期と一致している。

二つ目は浅発月震だ。深さ20〜30km程度の月の地殻内で起きる。月が冷えて収縮することで生じるひずみが原因と考えられている。浅発月震は月震の中で最も大きく、マグニチュード5.5程度に達することがあり、10分以上続くことがある。

三つ目は隕石衝突による月震だ。月には大気がないため隕石が直接表面に衝突し、それが地震波を発生させる。

四つ目は熱月震だ。月は昼と夜の温度差が非常に大きく、昼は120℃以上、夜はマイナス170℃以下になる。この温度変化によって岩石が膨張・収縮を繰り返し、地震が起きる。

月震も火星地震と同様に揺れが長く続く特徴がある。これは月の岩盤が非常に乾燥しており、地震波が減衰しにくいためだ。


金星

金星は地球とほぼ同じ大きさの岩石惑星だが、地震の直接観測はまだ行われていない。金星の表面温度は約460℃と非常に高く、大気圧も地球の90倍に達するため、探査機を長時間稼働させることが極めて難しい。過去のソビエトのベネラ探査機は着陸に成功したが、数時間で壊れてしまった。

しかし金星でも地震活動がある可能性は高いと考えられている。レーダー探査によって金星の表面には比較的新しい火山活動の痕跡が観測されており、現在も火山活動が続いている可能性がある。火山活動があれば火山性地震も起きているはずだ。

また金星の大気中の音波を観測することで間接的に地震を検知できる可能性が研究されている。地震が起きると地面の振動が大気に伝わり、大気中に音波として広がる。この音波を気球に搭載したセンサーで観測するというアイデアが検討されており、NASAの将来のミッションで実現される可能性がある。


地震とは何かを改めて考える

火星・月・金星の地震を見てきて、改めて気づくことがある。

地震とはプレートテクトニクスの産物ではない。惑星が冷えて収縮するとき、マグマが移動するとき、潮汐力でひずみが生まれるとき、隕石が衝突するとき、温度変化で岩石が膨張収縮するとき、地震は起きる。

地球でもプレートテクトニクスとは直接関係しない地震が存在することは第4回で見た。火山性地震や人為的地震がその例だ。これらは火星や月の地震のメカニズムと部分的に重なっている。

つまりプレートテクトニクスは地球上で地震が起きやすい場所と理由を説明する強力な枠組みだ。しかし地震そのものはプレートテクトニクスがなくても起きる、より根本的な現象だ。岩石でできた惑星であれば、何らかの力でひずみが生まれ、そのひずみが解放されるときに地震が起きる。

次回は、地震の予測はどこまで可能なのかを見ていく。

コメント

タイトルとURLをコピーしました