プレートテクトニクスは地震をどこまで説明できるのか
これまで三回にわたってプレートテクトニクスの基本的な枠組みを見てきた。プレートとは何か、なぜ動くのか、境界では何が起きているのか。しかしここで改めて問いたい。プレートテクトニクスは地震をどこまで説明できているのか。
プレートテクトニクスが説明できることはある。なぜ日本列島の周辺で地震が多いのか。なぜ太平洋の周囲に地震が集中するのか。こういった大きなスケールの問いには答えられる。
しかしプレートは完全な剛体ではない。第1回で見たように、同じプレートの上でも場所によって動きが異なることがGPSで観測されており、プレートの内部でもひずみが蓄積する。ひずみがどこに集中するかは岩盤の硬さや形状、間隙水圧といった局所的な条件によって決まるが、これらを地下深くで正確に把握することは現在の観測技術では極めて難しい。
つまりプレートテクトニクスは「なぜその地域で地震が起きやすいか」は説明できても、「なぜその場所でその瞬間に地震が起きるか」は説明できない。
プレートテクトニクスの枠組みから外れる地震
地震の原因はプレートのひずみだけではない。
火山性地震がある。マグマが移動するときや火山ガスの圧力が変化するときに地震が起きる。火山の噴火前に小さな地震が群発するのはこのためだ。これはプレートのひずみとは直接関係しない。
人為的に引き起こされる地震もある。ダムの建設による水の重さの変化、地下水の汲み上げや廃液の地下注入によって地震が起きることが観測されている。アメリカでは2010年代にシェールガス採掘のための廃液を地下に注入したことで、それまで地震が少なかった中部で地震が急増したことがGPSと地震計の観測で確認されている。つまり人間の活動が地震を引き起こすことは観測事実として確認されている。
プレートの中で起きるが説明できていない地震
プレートテクトニクスの枠組みの中にありながら、まだ説明できていない地震もある。
深発地震だ。通常の地震の震源がプレートの中にあるように、深発地震の震源も沈み込んだスラブ、つまりプレートの中にある。ベニオフ帯と呼ばれるスラブに沿った帯状の領域に震源が集中していることが地震波の観測から確認されている。
しかしここに根本的な問いがある。地震は岩盤が割れることで起きる。浅い場所の岩石は温度が低く硬いため、力がかかると割れる。しかし深くなるにつれて温度と圧力が上がり、岩石はゆっくりと変形するようになる。割れずに曲がるため、理論的には深い場所では地震は起きないはずだ。それにもかかわらず深さ300〜700kmでも地震が観測されている。2013年にオホーツク海で起きたM8.3の地震は深さ609kmで起きた。
深さ70〜300kmの中発地震については、スラブから水分が染み出すことで岩石が割れやすくなるという説明がある程度成立している。しかし300km以下の深発地震については、オリビンという鉱物が別の鉱物に変化する際の体積変化で割れるという説、摩擦熱が局所的に集中して熱的暴走が起きるという説、深い場所でも水分が存在しているという説など複数の仮説が議論されているが、まだ決着していない。深発地震のメカニズムは現在も地震学の最前線で議論が続いている未解決問題だ。
スロー地震もプレートの中で起きるが説明が難しい現象だ。通常の地震は秒から分のスケールで断層がずれる。しかし2000年代以降、断層が日から週のスケールでゆっくりとずれていく現象が発見された。スロー地震は揺れを起こさないため地震計では検知できなかったが、GPSの精密計測によって地表がわずかに動いていることが観測されるようになり、その存在が明らかになった。日本の観測網はこの研究で世界をリードしており、四国や紀伊半島の沖合で定期的にスロー地震が起きていることが観測されている。
カスケード沈み込み帯では通常北アメリカプレートがGPSで東方向に動き続けているが、スロー地震が起きると数週間にわたって西方向への動きが観測される。スロー地震が終わると再び東方向に動き始める。またスロー地震が起きる場所はプレートがロックされている深部より下の領域であり、スロー地震が起きるとロックされている部分へのひずみが増加することも観測されている。スロー地震と通常の大地震の間には何らかの関係がある可能性があるが、その詳細はまだ研究の途中にある。
通常の地震とスロー地震の中間の現象も観測されており、地震は「激しく揺れるもの」と「ゆっくりずれるもの」の二択ではなく、連続したスペクトルとして存在することがわかってきた。これは「地震とは何か」という定義そのものが、まだ確定していないことを示している。
観測が示した想定外の事実
2011年の東日本大震災はプレートテクトニクスという枠組みに対して根本的な問いを突きつけた。
三陸沖はプレートの境界であり地震が多い地域として知られていた。宮城県沖では過去に30〜40年間隔でM7〜8クラスの地震が繰り返し観測されていた。しかしこの地域のプレート境界は直線的ではないため、M8.5を超えるような巨大地震は起きにくいと評価されていた。
しかし実際には岩手沖から茨城沖にかけて500km以上にわたる断層面が一気に破壊し、M9.0の地震が起きた。さらに浅部での大きなすべりが起きたことも従来のモデルでは想定されていなかった。これらを予測した専門家はいなかった。
なぜ予測できなかったのか。この地域で数百年以上の再来間隔を持つような巨大地震が起きることは、100年程度の観測データからは読み取れなかった。地震が定期的に繰り返すというモデルは、限られた観測データから導かれたものであり、バイアスを含んでいる可能性がある。
プレートテクトニクスは書き換えられ続けている
1960年代に確立されたプレートテクトニクスの理論は、その後の観測によって大きく変化してきた。
当初プレートは剛体として扱われていたが、GPSの観測から準剛体として扱われるようになった。プレートを動かす力はマントル対流とされていたが、スラブプルが主役だという方向にシフトした。プレートの境界は明確な線とされていたが、実際には広い帯状の変形域として存在することがわかってきた。スロー地震の存在も当初は想定されていなかった。そして深発地震のメカニズムはいまだに解明されていない。
つまりプレートテクトニクスは「完成した理論」ではなく、観測事実に合わせて修正され続けている枠組みだ。
次回は、プレートテクトニクスがない星でも地震が起きることを見ていく。


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