プレートはなぜ動けるのか
前回、プレートとは地殻とその下の上部マントルの一部を合わせた層のことだと説明した。しかしその説明を読んで疑問を持った人もいるかもしれない。マントルは固体なのではないのか。固体の上に固体が乗っているなら、なぜプレートが動けるのか。
地球の内部は直接見ることができない。では何がわかっているのか。地震波だ。地震が起きると、地震波が地球の内部を伝わっていく。その伝わり方を世界中の地震計で観測することで、地球の内部構造が間接的にわかる。
地震波には二種類ある。固体の中だけを伝わるS波と、固体でも液体でも伝わるP波だ。ある深さからS波が伝わらなくなれば、そこから先は液体だということがわかる。
この観測から、地球の内部はいくつかの層に分かれていることがわかっている。表面を覆う地殻の下にはマントルがあり、深さ約2900kmまでを占めている。マントルにはS波が伝わることが観測されており、固体だということがわかる。その下の外核ではS波が伝わらないため液体だ。さらにその下の内核は再びS波が伝わるため固体だと考えられている。
つまり地球の内部のほとんどは固体だ。ではその固体のマントルの上で、なぜプレートが動けるのか。
固体が流れるとはどういうことか
固体が流れるというのは直感に反するように聞こえる。しかし固体でも、非常に長い時間スケールで見ると流動的にふるまうことがある。
身近な例が氷河だ。氷は固体だが、何千年という時間をかけてゆっくりと山の斜面を流れ下る。一日や一年では動いているかどうかわからないが、何千年というスケールで見ると明らかに流れている。
マントルも同様だ。マントルの岩石は固体だが、数百万年から数千万年という時間スケールで見ると、流動的にふるまう。これはマントルが非常に高温であり、固体でありながら極めてゆっくりと変形できる性質を持っているからだ。
ここで重要なのが、マントルの中でも深さによって性質が異なるということだ。地震波の観測によると、地殻の底から深さ約100〜200kmあたりに、地震波の速度が特に低下する層が存在することがわかっている。この層は他の部分より柔らかく、流動的にふるまいやすい。これをアセノスフェアと呼ぶ。そしてその上にある、地殻とマントルの上部を合わせた比較的硬い層がリソスフェア、つまりプレートだ。
プレートはこのアセノスフェアの上に乗っており、アセノスフェアが流動的にふるまうからこそ、プレートはその上を動くことができる。
何がプレートを動かしているのか
プレートがアセノスフェアの上を動けることはわかった。では何がプレートを動かしているのか。
よく聞く説明がある。地球内部の熱によってアセノスフェアを含むマントルが対流しており、その流れに乗ってプレートがベルトコンベアーのように運ばれるというイメージだ。
しかしこの説明には問題がある。マントルの対流速度は、地震波トモグラフィーによるマントル内部の温度分布の変化を長期間にわたって追跡することで推定されている。その結果、マントルの対流速度は年間約1〜2cm程度と推定されている。しかしGPSの観測では、太平洋プレートは年間約7〜8cm、オーストラリアプレートは年間約7cmというように、マントルの対流速度をはるかに超える速さで動いているプレートがある。マントルの対流がプレートを動かしているなら、プレートはマントルの対流より速く動けないはずだ。しかし実際にはそうなっていない。
つまりマントルの対流だけではプレートの動きを説明できない。では何がプレートを動かしているのか。
スラブプル
現在の研究でプレートを動かす主役と考えられているのがスラブプルだ。
海洋プレートは時間とともに冷えて密度が高くなる。密度が高くなると重くなり、アセノスフェアの中に沈み込もうとする。この沈み込んだプレートをスラブと呼ぶ。スラブが沈み込む際に、まだ沈み込んでいない部分のプレートを引っ張る力が生まれる。これがスラブプルだ。ちょうどテーブルからはみ出したテーブルクロスが自分の重さで引っ張られて落ちていくようなイメージだ。
GPSの観測では、沈み込み帯を持つ海洋プレートの方が、沈み込み帯を持たない大陸プレートより速く動いていることが確認されている。太平洋プレート、オーストラリアプレート、ナスカプレートなど沈み込み帯を持つプレートは年間数cmから10cm近く動くのに対して、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、アフリカプレートなど沈み込み帯を持たないプレートは年間1〜2cm程度と遅い。この観測がスラブプルを主役とする考えを支持している。
つまりプレートが動く主な理由は、マントルの対流に押されているからではなく、沈み込んだスラブが自分自身の重さでプレートを引っ張っているからだと考えられている。
リッジプッシュ
スラブプルと並んでプレートを動かす力として考えられているのがリッジプッシュだ。
プレートが離れていく場所、海嶺では高温のアセノスフェアが上昇してくる。上昇してきたアセノスフェアは冷えて新しい海洋プレートになる。生まれたばかりの海洋プレートは熱くて膨らんでいるため、周囲の古くて冷えた海洋底より高い位置にある。この高さの差が重力によってプレートを海嶺から押し出す力になる。山の斜面を石が転がり落ちるようなイメージだ。これがリッジプッシュだ。
ただしリッジプッシュはスラブプルに比べて小さな力だと考えられている。
大陸プレートはどうなのか
ここで気になることがある。スラブプルは海洋プレートが沈み込むことで生まれる力だ。では沈み込みのない大陸プレートはどうやって動いているのか。
大陸プレートは密度が低いためマントルの中に沈み込みにくい。大陸同士がぶつかると、沈み込まずに押し合って山脈を作る。ヒマラヤ山脈はインドプレートとユーラシアプレートがぶつかって生まれた山脈だ。
大陸プレートを動かす力については、リッジプッシュとアセノスフェアの対流の影響が考えられているが、海洋プレートに比べてその詳細はまだ議論が続いている。
マントル対流の役割
ではマントルの対流はプレートの動きと全く関係ないのか。そうではない。
マントルの対流はプレートを直接動かす主役ではないが、アセノスフェアを流動的に保つ熱のエンジンとして機能している。マントルの対流がなければアセノスフェアは冷えて固まり、プレートはその上を動けなくなる。またマントルの対流はリッジプッシュの源となる海嶺でのアセノスフェアの上昇も引き起こしている。
つまりプレートを動かす力の全体像はこうなる。スラブプルが主役として海洋プレートを引っ張り、リッジプッシュが補助的にプレートを押し出し、マントルの対流がその背景にある熱のエンジンとして機能している。
しかしこの枠組みでもまだ説明できていないことがある。そもそもプレートはどこで、どのように沈み込み始めるのか。これは次回、プレートの境界で何が起きているのかを見ていく中で考えたい。


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